現代の若者におすすめする昭和のメンヘラソング
こんにちは。
突然ですがみなさんは昭和恋愛ソングの女の子像といえば、何を思い浮かべますか?
松田聖子「赤いスイートピー」のような、煙草の匂いのシャツにそっと寄り添っちゃう、いじらしいけどやることはちゃっかりやってそうな女子?
岩崎宏美「聖母たちのララバイ」のような、母になって遠くで見つめてる、「聖母(マドンナ)」を自称しちゃう系のやべー女子?
それとも竹内まりや「プラスティック・ラブ」のような、恋なんてただのゲームと強がっていても過去の恋愛を忘れられない寂しいオンナ?
私がおすすめしたいのは、上記の女の子像とはまた違う、なんというか……おぞましいメンヘラソングです。一途な愛が故あらぬ方向に感情が爆発しちゃったような歌。昭和恋愛ソングは健気で可愛らしい女の子ばかり登場すると思ったら大間違いです。現代の若者にも刺さるような、棘のある美しい曲をこの場を借りて紹介させてください。
二人静-「天河伝説殺人事件より」
まず最初の曲は中森明菜の「二人静-『天河伝説殺人事件より』」(1991)です。昭和と言いながら出だしから平成初期の曲になってしまいました。すみません。
中森明菜ちゃんといえば、どこか影のある、ツッパリ系で強がりなイメージがありますよね。『きまぐれオレンジ☆ロード』の鮎川まどかみたいな。
現代風に言うと、マイメロが松田聖子ならクロミちゃんが中森明菜。そういう「病み系」に近しいものがあると思います。(個人的解釈です)
タイトルの「天河伝説殺人事件」と言うのは、同タイトルのサスペンス映画のタイアップ曲であったことから来ています。そしてその映画の舞台(奈良県吉野)が能の演目「二人静」と関係しています。つまり、サスペンス映画のテーマに沿った怪しい雰囲気の曲となっているわけです。
この曲の特徴はなんと言っても幻想的な歌詞と妖艶さでしょう。作詞は松本隆。情景が目に浮かんでくるような詞を多く生み出す、偉大な作詞家です。
“殺めたいくらい 愛しすぎたから…
添い寝して永遠に抱いていてあげる
いい夢を見なさいな うたかたの夢を
夜桜がさわぐ“
「殺めたいくらい愛しすぎた」ってまぁ衝撃的な歌詞ですよね。もうすでに殺めてしまったかのような、どこか冷静な印象がより恐ろしく感じられます。というかもう殺めてますよね、これ。
私が特に好きなフレーズは
“幸薄い蜻蛉の衣を脱ぐように“
です。
カゲロウは成虫になって1日ほどしか生きられない、とても寿命の短い昆虫です。
源氏物語では薫の君が
“ありと見て 手には取られず 見ればまた 行方も知らず 消えし蜻蛉“
と、女性達を思いながら悲しみに耽る気持ちを、蜻蛉の儚さになぞらえて詠んでいます。
また、古代〜中世日本ではトンボのことも「蜻蛉(かげろう)」と呼んでいました。万葉集の歌の中には、高級で美しい布をてトンボの薄く透き通る翅と表現した歌があります。
つまりこのフレーズは、日本の古典を踏襲しながら儚く美しい情景を描いているのです。いやぁアツい。このような美しい情景描写がこの曲の随所に散りばめられているので、ぜひご自身の目で耳で確かめてください。
ウェディング・ベル
次に紹介したいのはシュガーの「ウェディング・ベル」(1981)です。有名ですよね。当時生まれていた方のほとんどが知っているでしょう。私は生まれてなかったのでこの曲に出会った時はそれは衝撃でした。
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なんと言っても
"くたばっちまえ アーメン"
平和的な曲調、3人の綺麗なハモり。明るい印象からサビの最後で「くたばっちまえ アーメン」という鋭利なリリック。痺れます。ニコッと首を傾げながら歌うもんだから怖い。
この曲は自分の好きな男性が別の女性と結婚してしまう式に出席した気持ちを歌っています。
”私の方がちょっと綺麗みたい“
”お嫁さんの瞳に喜びの涙 悲しい涙にならなきゃいいけど“
このいじらしく強かで清々しい程祝福していない女の子、むしろ好印象です。きっとツイッターにいたら女性からの支持でなかなかのフォロワー数を稼いでいたことでしょう。
歌詞を見ると、彼との恋愛に本気だった主人公を結婚式に招待した男側が悪いように思えます。よく呼べたなと。しかし見方を変えると、「主人公の一方的な片思いであり、彼との間に異性の関係は無かった」とも考えられます。
例えば、
”教会のいちばん後ろの席にひとりぼっちで座らせておいて“
彼からしたら主人公はその程度の間柄であったと考えられませんか?
また、こちらの席に近づいてくる新郎新婦に
“もうすぐあなたは私を見つけ無邪気に微笑んでみせるでしょう”。
これは普通なら気まずい顔になりませんか?まあ2人の過去に何があったかは読み取れないのでよくわかりませんが…。
このように、主人公の一方的な片思いであったと考えた場合、この曲の恐ろしさ、メンヘラ度が加速するのです。信じるか信じないかはあなた次第です。しかしどちらにせよ、”お化粧する娘はきらい“と言う男にロクな男はいません。あれ?やはり男がクズなのでは…?
AIN’T NOBODY 〜永遠の恋人〜
最後に紹介するのはWinkの『AIN’T NOBODY 〜永遠の恋人』(1995)です。思いっきり平成です。すみません。アメリカの歌手、チャカ・カーンが1983年にリリースした『Ain’t Nobody』のカバー曲です。日本語詞を書いたのは『残酷な天使のテーゼ』でお馴染みの及川眠子先生。彼女はWinkに多くの詞を提供しており、Winkの幻想的で偶像的な世界観を構成する一つの要素として欠かせない人物です。
(YouTubeでは原曲が見つからず…)
この曲は出だしからもうすごいです。
“冷めた心で抱くのなら死んでほしい いますぐ“
あの笑わないお人形みたいなWinkから「死んでほしい」という言葉が出るなんて、そこはかとない凄まじさを感じませんか?ドキリとしてしまいます。
恐らく好きになった男性が遊び半分で付き合ったと知り、そのショックと激昂を描いた歌詞なのでしょう。しかし描写があまりにも比喩的で上品で美しく、曲調も軽快なため、そのギャップがおどろおどろしさに拍車をかけています。
“女はそう 愛のため 魔物にさえなれるから
風を消して 逃げ道を 森のなかへ導いて
人があなたを忘れ去るときまで”
恨み節が恐ろしいです。とにかく怖い。あなたを知っているのは、愛しているのは私だけでいい。究極の愛の表現だと言えるでしょう。
“蒼い湖の底で愛が生まれ変わる 星の光うけてまた生まれ変わる”
これはもう無理心中しちゃってますよね。にしてもなんとロマンチックな描写なんでしょうか。たしかにこれは「永遠の恋人」と言わざるを得ません。もうお手上げです。参りました。
この歌詞をWinkに提供した及川眠子先生は本当に素晴らしいです。どこか影のあるアンニュイなところがWinkの魅力なのですが、にしても「死んでほしい」とまで歌うのは当時のアイドルにしては珍しいのではないでしょうか。
ということで、昭和メンヘラ曲紹介は以上です。昭和と言っても3分の2が平成の曲になってしまったことは申し訳ないです。ごめんなさい。私の聴く昭和ソングは偏っており、知識不足なところもあるため「こんなメンヘラソングもあるよ!」と教えていただければ幸いです。(個人的には薬師丸ひろ子の『あなたを・もっと・知りたくて』もなかなかメンヘラだと思うのですが、まだ可愛らしい曲なので置いておきました。)
これらの曲があなたの琴線に触れ、昭和ソングの魅力に触れることを願っています。